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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)503号 判決

控訴人 申立人 鈴木ヒサ

訴訟代理人 萩原由太郎

被控訴人 被申立人 山口織之進

訴訟代理人 丁野暁春

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。債権者被控訴人債務者控訴人間の東京地方裁判所昭和二十四年(ヨ)第七一一号仮処分事件につき、同裁判所が同年四月四日為した仮処分決定はこれを取消す。本件申立の費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

事実関係につき、当事者双方は、原判決事実摘示のとおり陳述したので、ここにこれを引用する。なお被控訴代理人は「被控訴人は、大正十三年七月四日以降鏑木清太郎(同人死亡後は相続人鏑木秋男)より、その所有に属する東京都品川区平塚七丁目六百二十二番ノ二宅地三百坪一勺を賃借し引続きこれを菜園として使用中であるが、控訴人は本件土地を鏑木秋男より買受けたと称し、暴力を用い被控訴人占有中の右土地に建築材料等の持込を為す恐があり、瞬時も許し難い状態にあることを理由として、売買無効及び賃借権確認の訴訟提起前、権利保全の為め本件仮処分命令の申請に及んだ。ところで、東京地方裁判所は右申請を容れて、本件土地に対する被控訴人の占有を解いてこれを同裁判所執行吏の保管に移し、被控訴人がこれを菜園として使用することを許し、控訴人の妨害行為を禁止する趣旨の決定を為したのである。(以上乙第一、二号証参照)。然しながら、右仮処分申請本来の趣旨は被控訴人の賃借権に基く本件土地の占有に対し加えられる妨害行為を防止せんとするに在るので被控訴人は本案訴訟提起命令に接し、右仮処分の本案として占有保全並びに占有妨害禁止の訴を提起した次第である。それ故右の訴は本件仮処分の本案訴訟たる適格を有するものである。仮に右訴訟の請求原因が仮処分申請の理由と異なるものとするも、両者その基礎たる事実関係には変りがなく従つて右は本案訴訟としての適格を欠くものではない。」と述べ、控訴代理人は、「右仮処分命令申請の理由が被控訴人主張の如くであり、これに対し被控訴人主張の如き趣旨の仮処分命令が発せられたことは認める。被控訴人は右仮処分命令の申請理由において後に提起することを前提とした賃借権確認(所謂本権に関する)の訴を起訴命令所定の期間内に提起せず、これと全く性質を異にし請求の基礎を別にする占有のみに関する訴訟を提起したのであるからこれによつては本案訴訟としての適格を有する訴を提起したことにならぬのは勿論であつて右仮処分命令は取消さるべきものであると述べた。

証拠として、控訴代理人は、甲第一、二号証を提出し、乙号各証の原本の存在並びにその成立を認め、被控訴代理人は、乙第一、二号を提出し、甲号各証の原本の存在並びにその成立を認めると述べた。

理由

被控訴人がその主張のような理由の下に東京地方裁判所に対し東京都品川区平塚七丁目六百二十二番ノ二宅地三百坪一勺について仮処分の申請を為し(同庁昭和二十四年(ヨ)第七一一号不動産仮処分事件)、昭和二十四年四月四日被控訴人主張の趣旨の仮処分決定を得て、即日控訴人に対し該決定に基く執行を為したこと、同裁判所が控訴人の起訴命令申請に因り同月八日被控訴人に対し決定送達の日から十四日内に管轄裁判所に本案訴訟を提起すべき旨の決定を為し、右決定は翌九日被控訴人に送達せられたところ、被控訴人は同月二十二日控訴人を被告として東京地方裁判所に対し、右仮処分事件の本案訴訟であるとして、占有保全並びに占有妨害禁止の訴を提起したことは凡て当事者間に争がない。控訴人は、被控訴人は賃借権の侵害を理由として本件仮処分申請を為し、その決定を得たのであるに拘らず起訴命令の送達を受けるやこれと全く請求原因及び法律上の性質を異にする占有権に関する本訴を提起したのであるから、これによつては右命令を遵守したものと云えぬことは勿論であり本件仮処分決定は起訴期間の徒過により取消さるべきであると主張するので、以下これにつき判断する。

およそ仮処分の申立における請求と本案の訴における請求とは必ずしも全然同一たることを要せず、いやしくもその請求の基礎にして同一性を失わない限り彼此その請求の原因を異にするもあえて差し支えないものと解するを相当とする。今これを本件についてみるに、本件仮処分の申請は、元来被控訴人が本件土地に対して有する賃借権につき仮の地位を定めることを目的とするものであつたこと並びに、被控訴人がこれが本案訴訟なりとして提起した占有保全並びに占有妨害禁止の訴は、賃借権確認の訴とはその請求の原因並びに法律上の性質を異にしていることは、まことに控訴人主張のとおりであるが、賃借権は、目的物を使用収益する権利として目的物に対する占有を伴うべきものであるから、その目的物を占有することは、一面賃借権行使の態様となり他面占有権成立の基礎ともなるので賃借権を理由とする本件の訴と、右賃借権に基く占有を根拠とする占有権の訴とはその請求の基礎において同一性を失わないものというべく、従つて本件占有保全並びに占有妨害禁止の訴もまた本件仮処分の本案訴訟たることをうるものといわなければならぬ。

果して然らば、本案訴訟の提起のないことを理由とする控訴人の本件仮処分決定取消の申立は失当であるからこれを却下すべく、右と同趣旨に出た原判決は相当であつて控訴人の控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四條、第九十五條、第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 大江保直 判事 梅原松次郎 判事 奥野利一)

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